「人質司法」、自分や家族に置き換えて/HRWとIPJが、「第3回 人質司法サバイバー国会—大川原化工機事件『後』 司法はどう変わるべきか?」を開催


左端から、故・相嶋静夫さんの長男、大川原化工機の大川原正明社長、島田順司元取締役(3月26日、参議院議員会館行動にて。撮影:刑事弁護OASIS編集部)

 2026年3月26日、参議院議員会館講堂にて、「人質司法サバイバー国会」が開催された。取調べや保釈を取り巻く制度の改正を目指し、国会議員に「人質司法」の実態を伝えるとともに、制度改正の機運を高めるため、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)が主催するイベントだ。2023年度から毎年度開催されており、第3回を迎える(第1回の様子はこちら)。会場には、14名の国会議員や報道関係者を含め、多くの人が集まった。

 集会では、人質司法の実態や冤罪の構造を明らかにした優れた報道を称えるために設けられた人質司法報道賞の授賞式が同時に行われた。受賞者は、NHKチーフディレクターの石原大史さんと、毎日新聞記者の遠藤浩二さんである。

大川原化工機事件、37人の裁判官を提訴予定

 基調スピーチでは、大川原化工機事件を振り返り、大川原正明社長が「逮捕されても社員は誰も辞めなかった。でも、メディアは逮捕や勾留されたことを大々的に報道する。これだけはやめてほしい」と訴えた。

 集会で、映画監督の周防正行さんや人質司法サバイバー江口大和元弁護士は、長期の勾留を利用して自白を迫る取調べ手法——「人質司法」は捜査機関にもちろん問題があるが、それを許可している裁判官に根本的責任があると発言した。

 大川原化工機事件では、勾留中に亡くなった元顧問の相嶋静夫さん(享年72歳)の遺族は、勾留令状発付や保釈請求却下に関わった37人の裁判官の責任を問う国賠訴訟を4月にも提起する予定であることが明らかにされた。

左端から、故・相嶋静夫さんの長男、今西貴大さんの母、鈴木貴子衆議院議員、モデレーター・今西貴大さん(3月26日、参議院議員会館行動にて。撮影:刑事弁護OASIS編集部)

無罪判決を得るまでの7年間は返ってこない

 トークセッション1「家族と人質司法」では、大川原化工機事件で、保釈が許可されることなく病死した相嶋静夫さんの長男が、「(父が)逮捕されたことは報道を見た親戚から聞かされた。家族には何も情報がなく、身近な人の刑事手続が自分の知らないところで進んでゆく様が気味悪かった」と当時の心境を語った。

 SBS/AHT事件(いわゆる今西事件)で無罪を獲得した人質司法サバイバーである、今西貴大さんは、「家族もサバイバーだ、人質司法の被害者は当事者だけではないことを伝えたい」と強く訴えた。

 これを受けて、貴大さんの母は、「(息子が)逮捕されてから1カ月、報道は怖くて一切見られなかった。有ること無いこと報じられて、私たち家族の人生も本当に辛かった。無罪判決を得るまでの7年間は返ってこない」と事件当時を振り返った。

 続いて、鈴木貴子衆議院議員(自民党)は、父・鈴木宗男衆議院議員が受託収賄罪などで逮捕(有罪判決が確定したが、再審請求中)された当時のことを「言葉には言い尽くせない」としながらも、「人質司法」に対する思いを熱く語った。

 「メディアで取調べの様子はよく報じられるが、情報源は一方の当事者(捜査機関)だ。相手の手の上で転がされているようで、それが恐ろしい。父の437日にわたる勾留期間中は終わりが見えず、待っている人にとっても『生き地獄』で絶望の日々だった」。

 勾留中の当事者との関わりにおいては、「接見禁止のなか、留学から一時帰国中の自分だけ接見が許されたが、やっていないことの自白や調書への署名押印をさせるための検察の手口だと思って会いに行かなかった。その代わり手紙を書いたが、会いに行かないことが自白の『説得』に使われないよう文面には気を遣った」という。

 こうした現状の改善に対する決意を述べるとともに、「人質司法」に反対する「国民の意思を示してほしい」とした。

左端から、間下直晃さん、髙田剛弁護士、大川原正明社長、モデレーター・亀石倫子弁護士(3月26日、参議院議員会館行動にて。撮影:刑事弁護OASIS編集部)

大きすぎるリスク、「人質司法」

 トークセッション2「ビジネスと人質司法」では、大川原化工機事件の弁護人を務めた髙田剛弁護士が、「社長ら3人が逮捕された日に、顔写真付きで報道された。多くの会社はそれで終わりだ。まだ有罪と決まってはいないのに会社が潰れるなんてあってはならない」として、メディアが、捜査機関から提供された情報の扱い方を変える必要性に言及した。

 続いて、経済同友会規制改革委員会委員長を務める間下直晃さんが、経済上のリスクとしての「人質司法」に言及した。「日本の国際競争力の向上を目指すなかで、『人質司法』は甚大なリスク。海外からすればこんな国でビジネスはしたくない」。

 そして、「一度疑われて逮捕されたら(長く勾留されて社会に)出られないというのは、リスクとして大きすぎる。積極的にリスクを取る必要のあるイノベーションに、冷や水を浴びせる社会では、誰も挑戦できない。新しいことに挑戦しやすい社会にしていく必要がある」と訴えた。

「人質司法」は日本社会全体の課題を映し出す

 「人質司法」は冤罪原因の一つでもある。今年2月に法制審が法務大臣に諮問した再審法改正要綱骨子は、冤罪被害者の早期救済からは程遠いもので、超党派の「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」の議連案から大幅に後退したものであると批判されている。

 本イベントでも、再審法改正問題に関する国会議員からの発言が目立った。その中のひとり稲田朋美衆議院議員(自民党)は、議連案による再審法改正を強く推進したいと訴えた。さらに、大川原化工機事件の国賠訴訟にも言及し、「裁判所の間違いを判断するのも裁判所。組織が誤りを認めてそれを変えるのは難しい」が、「自分の家族に置き換えて考えてほしい」と述べた。

 また、本イベントを通じて、権力監視を担うメディアが、ときに身体拘束の過酷さに追い討ちをかけていることを、改めて認識させられた。ラサール石井参議院議員(社民党)による、「逮捕されたら、不起訴になろうが犯人扱いされて名誉回復はできない」との発言が印象的である。

 有罪判決が出ていないのに、逮捕の報道を通じて、まるで「犯罪者」であるかのような印象が広まってしまう。身近な人がそのように扱われる家族の気持ちも、勾留により自分の目が届かないところで、SNSなどを通じてネガティブな印象が社会に拡散される当事者の気持ちも、想像を絶するものだ。

 大川原化工機事件の経緯について、詳しくは、髙田剛「人質司法から会社をどのように守るか」(上・中・下)刑事弁護OASIS(2024年)、趙誠峰「大川原化工機事件・人質司法の記録」季刊刑事弁護116号(2023年)91頁を参照。

 本件に関わる国家賠償請求訴訟については、趙誠峰=佐藤元治「捜査機関の逮捕、勾留、公訴提起の違法性を認定した事例」季刊刑事弁護124号(2025年)120頁も参照。

 事件報道のあり方に関連する書籍として、野田隼人=堀田周吾『事件・裁判報道の「深層」を読む技術』(現代人文社、2026年)がある。

(お、な)

(2026年04月03日公開)


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