〈天竜林業高校事件〉「次回に証拠開示勧告をするか判断」と裁判長が明言/第2次再審請求審で三者協議

小石勝朗 ライター


三者協議の終了後に記者会見に臨む北川好伸さん(左から2人目)と弁護団(2026年5月20日、静岡県浜松市の県西部法律会館、撮影/小石勝朗)

 生徒の調査書の成績を改ざんするよう教員に指示し、その謝礼に生徒の祖父の元市長から現金を受け取ったとして加重収賄罪などで有罪判決が確定した静岡県立天竜林業高校(当時)の元校長、北川好伸さん(78歳)の第2次再審請求審で、静岡地裁浜松支部は5月20日、裁判所と弁護団、検察による3回目の三者協議を開いた。

 前回・3月の三者協議で裁判所が検察に求めた再捜査について、検察は結果の報告が5月末になると説明。來司(くるじ)直美裁判長は、その内容を受けて検察に対し証拠開示の勧告をするかどうかを次回・7月の三者協議で判断すると明言したという。

 北川さんの弁護団は今回の協議に先立ち、検察が2月に任意で開示した証拠を踏まえてまとめた申立補充書を提出した。第2次再審請求審のテーマになっている2007年の贈収賄が不可能だったと改めて強調するとともに、成績の改ざんを含む「事件全体の再審開始決定」を出すよう求めている。

贈収賄の可否が焦点、検察に再捜査を要請

 北川さんは校長だった2006年に、2人の生徒を推薦入試に合格させるため教員に指示して調査書の評定点をかさ上げしたとして、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた。また、うち1人の生徒の祖父である元静岡県天竜市長、中谷良作さん=贈賄罪で罰金70万円が確定、昨年11月に死去=から2006年と2007年の2回、謝礼としてそれぞれ現金10万円を受け取ったとして加重収賄罪に問われた。2010年に最高裁で懲役2年6月・執行猶予4年の判決が確定したが、捜査段階から一貫して犯行を否認している。

 第2次再審請求審で焦点になっているのは、2007年12月10日とされた2回目の贈収賄が可能だったかどうかだ。確定判決では中谷さんが午前11時ごろに高校を訪ねて北川さんに現金を渡したとされたが、弁護団は12時26分の印字がある銀行の伝票などをもとに「その時間帯に中谷さんは銀行で年金保険の契約手続きをしていた」と主張。一方、検察は中谷さんが手続きの途中で銀行を退店したとの新たな筋書きを持ち出して反論している。

 裁判所は前回・3月24日の三者協議で検察に対し、①当日の銀行の防犯カメラ映像を捜査機関が証拠として保管していないのなら、銀行に残っていないか確認する、②中谷さんが手続きの途中で退店したとすれば通帳を預けたことになるので、担当した銀行員の2007年12月の「預り通帳記入帳」が残っていないか銀行に照会し、残っていれば記録を取り寄せる——の2点に、いずれも捜査の一環として取り組むよう要請していた(前回の三者協議の詳しい内容については当サイトの記事をご参照ください)。

防犯カメラ映像の有無を「さらってでも確認して」

 三者協議は非公開で行われ、終了後に弁護団が浜松市内で記者会見を開いて概要を説明した。

 協議で來司裁判長はまず、前回要請した2点の捜査の状況を検察に尋ねた。検察は、銀行の担当者に会って事情を説明したうえで5月7日に捜査関係事項照会書を郵送し「つい先ほどその回答が届いたと連絡が来た」と報告。銀行の担当者とやりとりした際には、2点が「存在している可能性は少ないのではないかという話だった」との感触を示しながら、銀行からの回答内容を5月末までをめどに提出すると約束した。

 その際、裁判長は防犯カメラの映像を捜査機関が保管していないか「さらってでも確認してください」と強い言葉で念を押し、保管していない場合も書面で報告するよう求めた。また、弁護団の要請に応える形で、立件当時の捜査で映像の存否を銀行に照会した記録がないか調べ、書面が残っていれば開示するよう検察に伝えた。

 さらに、検察に弁護団の主張に対する反論の書面をまとめるよう指示し、検察は3カ月後までに提出することになった。

 そのうえで來司裁判長は「検察官からの報告書と銀行への照会の結果を踏まえて、次回の三者協議で証拠開示の勧告をするかどうか判断したい」と言明した。検察の反論書面が出てくる前の7月8日に次回協議の期日を設定。最後に「銀行の回答結果の報告を楽しみにしています」と言い添えたという。

贈賄側の行動を詳細に検証、高校には行っていない

 三者協議に先立ち弁護団が5月7日に提出した申立補充書は、検察が2月に任意で開示した証拠とこれまでの証拠を合わせて、2007年12月10日の贈収賄の可否に関する現時点での主張をまとめている。

 確定判決は検察の筋書きをもとに、中谷さんの手帳の同日の欄に書かれた「9:00銀行」のメモから、中谷さんは午前9時に銀行へ行って年金保険の契約手続きをした後、11時ごろ高校で北川さんに現金を渡したと認定した。これに対し、弁護団は補充書でこの日の中谷さんの行動を詳細に検証し、高校には行っていないと結論づけたのがポイントだ。

 補充書によると、新たに証拠開示された中谷さんの農協での振込伝票に「19-12-10 9:58」の印字があり、この後に向かった銀行には急いでも10時10分以降にしか着かないことがはっきりした。「9:00」は銀行の開店時刻を指していた。検察は確定審の段階でこうした事実を把握しており、弁護団は「審理では一切明らかにせず隠してきた」と非難している。

 また、新たに開示された銀行の書類を見ると、この日扱った年金保険に申し込むにはリスクなどの詳しい説明が必要で、手続きも煩雑だったことから、弁護団は「相当の長時間を要することは想像に難くない」と見立てた。11時ごろに来店から1時間足らずで銀行を出たことになる確定判決の認定と検察の「途中退店」ストーリーは成り立たず、契約手続きの伝票に印字された12時26分まで中谷さんは銀行にいたと立論した。

昼食や振込の時間がぴったり整合する

 補充書は、銀行を出た後の中谷さんの行動も、新たに開示された捜査報告書などで裏づけられたとしている。中谷さんがよく行っていた飲食店の当日の様子が明らかになったためだ。

 銀行から車で10分ほどのこの飲食店は昼食時間帯に開店するが、中谷さんがいつも注文する「かつ丼と赤だし」を4番目の客が頼んだ記録があり、中谷さんの供述と合うことが分かった。中谷さんは午後2時26分に飲食店の近くの信用金庫で、2時47分には郵便局で、それぞれ振込をしたと取調べメモに書かれており、12時半ごろに銀行を出て、この飲食店で午後1時前から2時ごろまで昼食をとってから信金と郵便局を回ったとすれば「時間がぴったりと整合する」と分析している。

 〈弁護団が描いた中谷さんの行動〉
 午前9時58分 農協で振込
 10時10分以降 銀行に到着
 10時30分ごろ 年金保険の契約手続きの受付(銀行の販売記録表に記載)
 12時26分 保険契約の手続きが終了、その後、銀行を出る
 12時50分ごろ 飲食店に到着し、かつ丼と赤だしを注文
 午後2時ごろ 食事を終え飲食店を出る
 2時26分 信用金庫で振込
 2時47分 郵便局で振込

 そのうえで弁護団は補充書で「明らかに中谷さんが2007年12月10日に北川さんに現金を渡した事実は認められない」と断じた。成績の改ざんについても北川さんは指示しておらず、教員が独断で行ったと改めて主張。裁判所に対し、必要な事実調べをしたうえで「贈収賄だけでなく調査書改ざんの点を含む事件全体の再審開始決定」をするよう求めた。

「捜査機関の暴走」と強く批判

 「裁判所はこちらの問題意識を100%理解してくれている。検察の反論が出る前に証拠開示の勧告をするかどうか判断するところからみて、早期に決定を出すつもりなのではないか。次回、(検察に)かなり厳しい判断が示されると思う」

 三者協議終了後の記者会見で、弁護団長の海渡雄一弁護士は裁判所の姿勢を評価した。

 一方で、検察が前回3月24日の三者協議で裁判所から再捜査を要請されながら、5月7日まで銀行に照会書を送っていなかったことに対し、弁護団から「わざと時間をかけているのではないか」と意図をいぶかる声も出た。

 三者協議に同席した北川さんは「この事件は冤罪のつくり方の手引書になる。捜査機関は中谷さんが高校に行けず贈収賄はできないと知っていたのに、暴走して私たち2人を逮捕した。捜査メモを見ると、警察と検察の上層部がでっち上げを指示したことが分かる」と改めて当時の捜査を強く批判した。

 海渡弁護士も「いま明らかになっていることが(確定審の)当時明らかになっていれば、有罪判決は書けなかった。捜査機関は逮捕する前に引き返さなければいけなかった」と力を込め、「北川さんの冤罪を晴らせるように、やれることはやり尽くして再審開始決定を取りたい」と決意を新たにしていた。

◎著者プロフィール
小石勝朗(こいし・かつろう) 
 朝日新聞などの記者として24年間、各地で勤務した後、2011年からフリーライター。冤罪、憲法、原発、地域発電、子育て支援、地方自治などの社会問題を中心に幅広く取材し、雑誌やウェブに執筆している 。主な著作に『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社、2018年)、『地域エネルギー発電所──事業化の最前線』(共著、現代人文社、2013年)などがある。


【天竜林業高校事件の動き】は以下を参照(編集部)
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(2026年05月26日公開)


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