〈「ノーモアえん罪 無実の人を救おう! 国会内市民集会」〉「再審法の5年後見直し」今からがスタートだ

粟野仁雄 ジャーナリスト


井出庸生衆議院議員(2026年9月29日、参議院議員会館講堂にて。撮影/刑事弁護オアシス編集部)

 再審法が78年ぶりに改正されたが、真に冤罪被害者を救う内容ではない。5年後を見据え、9月29日に参議院議員会館で「ノーモアえん罪 無実の人を救おう!  国会内市民集会」が冤罪被害者や国会議員、ジャーナリストなどが参加して開かれた。呼びかけは、ノーモア!えん罪プロジェクト実行委員会、再審法改正をめざす市民の会、冤罪犠牲者の会、再審法改正国会前アクション、無実の人を救おう!署名連絡会で、「再審法改正国会」を傍聴し続けた元毎日新聞記者の武内暁さんらが中心となって企画した。

 改正再審法に関する評価と今後の課題について語り合うはじめての市民集会である。

「5年後見直し」今からスタート

 最初に、弁護士の鴨志田祐美さん(日本弁護士連合会の再審法改正推進室長)が、再審法改正に至るまでの動きと冤罪救済に不十分である改正法に対する今後の取組みについて基調講演した。

 「ここ2~3年は再審法だけやっていたので、政府案が可決されたときは、本当に落ち込んだけど、袴田ひで子さんに不十分な改正法ができたことを謝ったら『何言ってんの。5年後がある』と言われ、石川早智子(狭山事件の石川一雄さんの妻)さんにも『原則でも抗告を禁止してくれて頑張れる』と励まされた」とようやく立ち直ったことを、講演の冒頭で語った。

 そして、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(超党派議連)誕生とその活動を下支えした全国の897地方議会での再審法改正意見書採択、検察の抗告全面禁止などをめざす超党派議連案の国会提出と、それを阻止しようとする法務省の動きを紹介した。

 「法制審では検察官の抗告には指一本触れられなかったが、学者や元裁判官が手を上げた。与党の党内審査で井出庸生さんや稲田朋美さんが奮戦した。過去、自民党の党内審査がマスメディアで報じられることはなかったが、『稲田の乱』が報じられた。法務省は三度も修正し、現行刑訴法450条から刑訴法448条1項の文言を削り検察官の抗告は原則禁止とされたが、十分な根拠があれば抗告できると『抜け道』をつくってしまった」と悔しい想いを語った。

 最後に、鴨志田弁護士は5年後に向けて何を勝ち取るべきかを以下のように提示し、「今からスタートだ」と宣言した。

 ①証拠リスト開示。これがなければどんな証拠を検察官がもっているかわからない。②再審請求人等への直接証拠開示。裁判所が開示証拠を見てもその重要性はわからない。再審請求に価値あるものかどうかは本人でないとわからない。布川事件の桜井昌司さんも、取調テープを聞いて「自分はもっとしゃべっていた」と訴え、調べたらあちこち編集されており、再審開始の決め手の一つになった。③裁判所の職権(裁量)による幅広い証拠開示命令。④開示証拠の目的外使用禁止規定の撤廃。証拠は検察官のものでない。⑤例外なしの検察官抗告の全面禁止。

国会議員、冤罪被害者、冤罪救援支援者らが発言

 その後、国会議員、冤罪被害者、冤罪救済支援者、ジャーナリストらがつぎつぎと発言に立った。

 2024年に発足した超党派議連は、議員立法による再審法改正を目指していた。

 打越さく良参議院議員(立憲民主党)は、「冤罪は国家による人権侵害、これまでここに注目がなかなか集まらず国会で議題にならなかった。今回、大きなうねりになったが、超党派の法案は法務省に巻き返されてしまった。法務省の刑事局長(佐藤淳氏)が『ようやく終わった。ありがとうございました』と挨拶に来たので、『まだ終わっていません』と言いました」と政府案成立後の動きを語った。

 超党派議連の事務局長をしていた井出庸生衆議院議員(自民党)は、「満足な結果ではない。『法務検察が敗北した』という記事があったが、国会が敗北したと思う。自民の議論の中でも議員立法が正しいとまでは認められなかった。5年後の見直しに向け、改正法の運用を厳しくチェックする。私も法務委員もやめるわけにいかない」と今後の方針を述べた。

 福島瑞穂参議院議員(社民党党首)は、現在の刑事司法の病理について語った。

 「検察官は自分たちの権限が少しでも減ることに抵抗した。法務検察の壁を突破できず申し訳ない。5年後見直しに向け今から動かないと。今後、証拠開示がどんな手続で進むのか注視したい。自白しなければ勾留から解放されない人質司法が変わらない。大川原化工機事件では、相嶋静夫さんは癌とわかって、何度も勾留の執行停止を請求したがかなわなかった。執行停止がなされたときは手遅れで亡くなった。勾留問題のほか代用監獄、取調べに弁護人が立会いできないこと、若干改善されたが無罪推定なのに法廷に入るとき被告人が腰縄手錠はおかしい。被疑者、被告人が人として扱われるように刑事司法が変わらなくては」。

市民集会の最後で、シュプレヒコールの音頭をとる日野町事件の阪原弘さんの長男・阪原弘次さん(2026年9月29日、参議院議員会館講堂にて。撮影/粟野仁雄)

 冤罪被害者では、再審開始決定が確定した日野町事件の阪原弘さんの長男・阪原弘次さんが発言した。

 「父ちゃんは、殴られても蹴られても自分がやったとは言わんかった。それでも『お前らの嫁ぎ先へ行って、家の中ガタガタにしたろうか』と言われたとき、我慢できんかった。誰が信用しなくてもお前らだけは信用してくれと言ったんです。家に帰りたいといいながら父は刑務所で亡くなりました。こんなつらいことはない。こんなことは許してはならない。奥西勝(名張事件)さんも石川一雄(狭山事件)さんも死後再審になってしまった。再審無罪を勝ち取ったときに一番喜ぶべき人がいない。冤罪に対する憎しみを拭ってくれるのが再審法の改正。今、再審法は土俵に上がったばかり」と、力強く語った。

 狭山事件の石川一雄さんの妻・早智子さんはこの日参加できず、「冤罪犠牲者の会」の野島美香さんがメッセージを代読した。「第一次、第二次再審請求は26年を費やしながら、事実調べは行われず、一度も三者協議が開かれなかった。狭山事件の長期化の原因は再審法の不備です。夫は獄中から証拠開示の義務化など改正を訴えていた。抗告の例外規定、目的外使用の禁止などは求めていた改正ではない、改悪にならないか危惧している」。一雄さんの句「権力の倉庫に眠る証拠の山、目覚し世に出せ、光を当てる」が紹介された。

「無力感との闘い」と映画監督の周防正行さん(2026年9月29日、参議院議員会館講堂にて。撮影/粟野仁雄)

 2019年発足の再審法改正をめざす市民の会は、当初より①再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、②検察官による再審のための証拠の全面開示、③再審請求審のルールの明文化、を求めて活動してきた。

 同会の共同代表で、映画監督である周防正行さんは、「法制審―新時代の刑事司法制度特別部会の委員として、取調べの適正について議論しましたが、取調べの録音・録画について不満足な改正に終わった。そのとき『3年後の見直し』を言っていたが、一向に進展がない。今回の改正で、『5年後の見直し』の言葉を見た瞬間に、10年かかって何も変わらないかもしれないと思った。目の前の改正では無力感が一杯だが、少しずつ変わっていることを信じたい」と複雑な感慨を述べた。

「検察は権力を守るために人を殺す」と鎌田慧さん(2026年9月29日、参議院議員会館講堂にて。撮影/粟野仁雄)

 ジャーナリストの鎌田慧さんは、「開示証拠を雑念なく見れば無実がわかるはず。検察は人の一人や二人死んでも権力を押し通せばいいという発想。国会議員の再審法を変えようという気持ちも跳ね飛ばして悪くしてしまう。検察も裁判官も無実の人を殺して平気でいる。三鷹事件の竹内景助さんも、ハンセン病(菊池事件)のFさんも、福岡事件の西武雄さんも、その犠牲者だ。袴田事件では村山浩昭裁判官のような人も現れたが、検察官は何も変わっていない」と検察官を痛烈に批判した。

 末席ながら筆者も登壇し、つぎのように述べた。

 「再審国会の取材では、法務検察が犯罪被害者と冤罪被害者が対立する存在かのように見せようとしていたことに違和感を持った。参議院の参考人招致では阪原弘次さんが出るはずがどこからか横やりが入って実現せず。福井女子中学生殺人事件で再審無罪となった前川彰司さんの参考人招致を楽しみにしていたら、政府案が通ることが決まっているなら意見陳述は意味がないと直前でキャンセル。前川さんの代わりに殺された女の子のお姉さん(高橋宏子さん)が意見陳述した。犯罪被害者と冤罪被害者が対立する存在でないことが印象付けられた。志布志事件や大川原化工機事件のような事件で証拠を捏造した捜査幹部らは犯罪者。彼らによって酷い目に遭った人たちは、冤罪被害者にとどまらず犯罪被害者でもあるのです。捏造した捜査幹部は何のお咎めもなく昇級したりしている。彼らを厳罰に処さなければ冤罪はなくならない」。

 最後に、阪原さんの音頭で「法務検察の壁を打ち破ろう!」「再審法、真の運用を!」「党議拘束を外せ!」「抗告禁止。証拠開示!」とシュプレヒコールをあげた。

 司会していた武内暁さんは法務検察の職務担当者との市民ヒアリングを求めていた。この日、集会の後に市民ヒアリングを予定していたが、法務省の役人は出てこなかった。

◎著者プロフィール
粟野仁雄(あわの・まさお) 
 1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部卒。共同通信記者を経て現職。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『瓦礫の中の群像 阪神大震災』(東京経済)、『アスベスト禍』(集英社新書)、『「この人、痴漢!」と言われたら』(中公新書ラクレ)、『検察に殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)など多数。近著に『袴田巖と世界一の姉——冤罪・袴田事件をめぐる人びとの願い』(花伝社)、『狙われたトップメーカー——冤罪・大川原化工機事件の傷跡』(同社)。神戸市在住。

(2026年10月15日公開)


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