「ワークショップ&リリース『日本の死刑と再審』〜日本政府はまだ死刑を存置し、生命権と人権を侵害し続けるのか?〜」開催報告


ワークショップ&リリース『日本の死刑と再審』〜日本政府はまだ死刑を存置し、生命権と人権を侵害し続けるのか?〜」で報告する大崎事件弁護団の鴨志田祐美弁護士(2023年9月4日。ベルリン・フンボルト大学)

 2023年9月4日(月)20時(ドイツ時間13時)より、一般社団法人刑事法未来(CJF)主催の「ワークショップ&リリース『日本の死刑と再審』〜日本政府はまだ死刑を存置し、生命権と人権を侵害し続けるのか?〜」が、ドイツ・ベルリン市のフンボルト大学で開催された。袴田事件弁護団の戸舘圭之、大崎事件弁護団の鴨志田祐美、絞首刑執行差止等請求事件弁護団の西愛礼各弁護士、石塚伸一龍谷大学名誉教授・CJF代表理事、斎藤司、金尚均、古川原明子各龍谷大学法学部教授らが報告した。Zoomでの参加者は168名での開始となった。

 第1部は、日本の2件冤罪事件と死刑制度をめぐる3件の国家賠償訴訟について、それぞれ報告が行われた。

【第1報告】「袴田巌事件について〜47年の拘禁の末に始まった再審裁判〜」(戸舘圭之弁護士)
 「Long and Winding History」として、袴田事件の歴史、再審開始のポイント、袴田さんの獄中からの手紙に記載された死刑の恐怖などが紹介された。戸館氏は、一刻も早い無罪判決が必要であると訴えた。

【第2報告】「再審法案の起草について〜日本には、再審に関する法律がない〜」(鴨志田祐美弁護士)
 大崎事件の概要、証拠構造、死因の鑑定自体が覆ったこと等と再審の経緯が紹介された。3度目の再審請求の際、地裁・高裁が開始決定したにもかかわらず最高裁が棄却したことについて、地裁と高裁が認めた判断を最高裁が覆したのは日本の再審史上、初めてであること、事件当時52歳の原口アヤ子さんが92歳になって、また最初から再審請求をしなければならなくなった現状を訴えた。

【第3報告】「死刑囚人権訴訟〜大阪で死刑囚の権利を争う裁判が始まった〜」(西愛礼弁護士)
 大阪で始まった死刑に関する3つの裁判で、①再審請求中の死刑執行、②即日告知、即日執行、③絞首刑という執行方法について、国家賠償訴訟として、憲法と国際人権法をもとに争われている点などが報告された。

「ワークショップ&リリース『日本の死刑と再審』〜日本政府はまだ死刑を存置し、生命権と人権を侵害し続けるのか?〜」が行われたベルリン市のフンボルト大学

 第2部は、日独の研究者より死刑と誤判救済制度についての報告とコメントが行われた。

【第4報告】「日本における再審の歴史と再審制度」(斎藤司〔龍谷大学法学部教授〕)
 日本の再審制度について、刑事訴訟法が複数の国をモデルに構築されてきた歴史とその特徴について報告された。日本の冤罪救済が、少ない条文と裁判所の裁量という不安定な状態で今に至っていること、免田事件など死刑4事例の再審無罪の後、多くの法改正が行われてきたが、これらはこの冤罪事件を教訓としたものではないこと、再審制度をはじめとした誤判防止・救済のための法改正はいまだに実現していないこと等を述べた。

【コメント1】「日本の刑法と死刑」(金尚均〔龍谷大学法学部教授〕)
 日本の刑法は、199条で私たち市民に「人を殺すな」ということを伝えている一方で、市民の生命を奪うことを正当化しているという矛盾を指摘した。その上で、死刑が人びとを市民と敵に二分すること、この二分法が現在世界中で影響力を持ち、分断と排除を招き、社会の安定を脅かしていくこと等を述べ、死刑は適用されるべきではなく、廃止されるべきであるとコメントした。

【コメント2】「日本の死刑(直前告知)」(古川原明子〔龍谷大学法学部教授〕)
 日本では、死刑執行当日の朝に執行を告知されることについて、医療の世界で最近は余命の告知が一般的になっていることと比べ、その不合理性を指摘した。死刑執行の直前告知は、死刑確定者が死と向き合う時間を奪い、死の瞬間まで人間の尊厳を持って生きる権利を奪っている。これは、死刑確定者に死刑と別の刑罰を科すことと等しいとして、西弁護士が報告された大阪での訴訟が日本の死刑制度を変えるものとなるようにとコメントした。

【コメント3】「ドイツからのコメント」(ルイス・グレコ〔フンボルト大学ベルリン法学部教授〕)
 ドイツでは、死刑の再導入をめぐる議論は見られず、法学者の間でも、ドイツで死刑がふたたび開始することはありえないという考えが主流であることを述べた。その理由として、人間の尊厳の保障と死刑は相いれないことを裁判所が認めていること、生命の絶対的保護の優位性は法共同体が死刑を放棄することでこそ、成立するものであり、人間の尊厳の理想からすれば、国家組織による死刑の執行はたえがたい行為であるとコメントした。

 最後に、第2部司会のヘニング・ローゼナウ氏(マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク法学部教授)からも次のようなコメントがあった。

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 ヨーロッパにおいて死刑はすでに選択肢ではなく、禁止されている。この共通認識は、比較的新しいもので、2002年に「あらゆる状況の下での死刑の廃止に関する人権および基本的自由の保護のための条約についての13議定書」の追加文として、死刑を廃止すると定められた。

 ヨーロッパでは死刑は人権の侵害であると理解されている。それのみではなく、死刑には合理的な根拠がない。誤判を完全に防ぐことはできず、後日判明することがある。

 この点は、再審制度にもつながっている。日本同様、ドイツにおいても再審は大変厳しい状況にある。再審は特別な救済措置として扱われている。日本においても、死刑の場合は、再審の検討にあたって死刑の執行を停止せざるをえないような仮の規定を加えるべきであると思う。

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 その後、質疑応答が行われ、最後に、参加者一同による「日本の死刑と再審に関する声明」を発表して、ワークショップは24時20分頃終了した。最後まで130名程度が参加する熱気あふれた時間となった。

 本ワークショップの詳しい報告は、こちらのPDFをご閲覧いただきたい。

(み)

(2023年10月12日公開)


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