大藪大麻裁判第10回公判/弁護側の証人請求をすべて却下し、検察の論告を強行


前橋地方裁判所正面入口(2024年1月30日撮影)

 1月30日(火)、前橋地方裁判所で、大麻所持の無罪を求めている大藪龍二郎さんの第10回公判が開かれた。

 昨年の臨時国会で、大麻使用罪の創設と医療用大麻の解禁に関する改正法が成立し、大麻の定義が変わったので、裁判でもこの点が考慮されるのではないかと注目されていた。

 午後1時30分きっかりに、審理は検察官、弁護側(大藪さん・丸井英弘・石塚伸一各弁護士)双方が出席の下はじまった。冒頭、弁護側は、園田寿・甲南大学名誉教授と正高佑志医師の二人を証人申請した。しかし、橋本健裁判長は、検察官の必要性なしとする意見を聞いただけで、弁護人の請求を却下した。検察官はなぜ「必要性」がないかの理由も示すことはなかった。

 結局、弁護側請求の証拠で採用されたのは、大藪さんの芸術活動と大麻との関係に触れた「報告書」(第6回公判)および植物片を大麻であると断定した群馬県警科学警察研究所職員(鑑定人)の法廷証言に関する平岡義博・元京都府警察本部科学捜査研究所主席研究員の「意見書」(第8回公判)だけである。

 裁判長は、結審を急ぎたいのか、すぐ検察官に論告するよう促した。

 弁護側があっけにとられている中、検察官は論告の要旨を読み上げた。

 論告は、公訴事実の証明は十分であるとした上で、弁護側の主張をつぎの5点に整理した。①大麻取締法の罰則は違憲である、②大麻取締法は国際条約に違反している、③被告人が、大麻を「みだりに」所持したと認められない、④本件公訴事実の「大麻を含有する植物片」は、大麻取締法上の大麻草(カンナビス・サティバ・エル)には当たらない、⑤本件大麻の押収に至るまでに行われた職務質問及び現行犯逮捕は、いずれも各要件を満たさず違法であるため、逮捕に当たって差し押さえた本件大麻及びその鑑定書等はいずれも違法収集証拠として排除されるべきである。

 ①については、最高裁昭和60年9月10日判決で合憲である旨決着がついているとした。論告の多くを④の鑑定の信用性と⑤の逮捕手続に違法がなかったことを縷縷のべるのに費やした。その上で、「本邦においては、昨今、SNSなどの通信手段が多様化したことなどにより、大麻をはじめとした違法薬物が一般人にまで広く浸透しているきらいがあり、違法薬物の蔓延が懸念されるところ、本件のような大麻を含有する植物片の単純所持の事案であっても、社会に対して警鐘を鳴らす意味で、厳重に処罰する必要がある」として、懲役6月を求刑した。

 主任弁護人の丸井弁護士は、「これまで大麻の有害性に関して、検察官に対して求釈明を要求してきたが、検察官はなんら回答をしていない、なんのために公判を維持しようとしているのか」と、本件をただちに公訴棄却するよう検察官に迫った。しかし、橋本裁判長は、弁護人が何を言っても、次回の弁論の中で主張すればよいとの一点張りに終始した。

報告集会で、橋本裁判長の訴訟指揮について批判する大藪龍二郎さん(右端)。中央が主任弁護人の丸井英弘弁護士、左端が支援者の長吉秀夫さん(群馬会館にて、2024年1月30日撮影)

 公判終了後に、報告集会が裁判所の隣にある群馬会館で行われた。

 集会の参加者の中には、橋本裁判長の裁判のやり方についての怒りが渦巻いていた。

 冒頭、大藪さんは、がっかりした様子でつぎのように述べた。「ほんとうに論告までいくとは思っていなかった。証人をひとりぐらい採用してくれるものと希望をもっていたのに、裁判官はいままでになく冷たかった。大麻の自己使用を犯罪にしないとしている世の中の流れとは裁判所も検察も真逆である。いまだに検察でも裁判所でもこのことが通用している。今度の大麻使用を犯罪とする改正論議の中で、ある政治家は、使用罪の運用方法がひどい場合は、積極的に問題にしたいと発言していたが、こういう裁判の状況を政治家にも知ってもらいたい」。

 また、支援者の長吉秀夫さんも訴訟指揮について、「裁判長は、弁護人が言いたいことは弁論の中で主張すればよいというが、弁護側の証拠請求をほとんど棄却してしまえば、弁護人は法廷に証拠を出すことができない。これでは、弁論の根拠を奪っていることに等しいものだ」と批判。

 つぎに、丸井弁護士は、怒りを抑えながら橋本裁判長のやり方を厳しく批判した。「次回は弁論です。そのあとは結審して判決です。結論は決まっている。これまでの裁判のやり方は、人権を守るという観点がない。大麻の自己使用がいけない理由については、裁判で何も触れようとしない。本当に独裁的やり方です」。

 最後に、長吉さんは、つぎのように、大藪大麻裁判の意義と今後の方針について確認した。「現行法でこのように主張していく裁判は、この大藪裁判が最後でしょう。しかし、この裁判では、検察官は大麻の有害性を明らかにしていない、これについて何も触れていない。裁判長はそのことを問題しなかった。そういうこと自体が人権侵害です。こういうことで、これまで何人もの人が有罪になったことか。大麻使用罪を創設した改正法下での捜査側の運用がとても心配です。僕たちはそれも監視していかないといけないが、まずは、最後までこの裁判の経過や内容を世の中にひろめて、しっかりと支援していきたい」。

 次回は、3月29日(金)午後1時30分から3時30分まで、弁護側の最終弁論が行われる予定である。

(2024年02月08日公開)


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